トリエステの奇跡

障害のある人を隔離するのではなく、市民生活を。隔離による絶望から自由でこそ人間性が解放される。こうした理念に基づいて、1978年、トリエステでは、精神病棟を廃止した。
病院の待合室でみた「人生、ここにあり」という映画のパンフレットだ。
この病院を運営するイタリアのトリエステでは、自治体の財政危機で、病院経営が行き詰まり、上記の理念を持つ自治体の長と、病院の責任者の決断で精神病棟を廃止した。同時に、国政でも、それを保証する改革が進められてきたことも重要なことだった。
こうした考えは、世界に広がり、我が国でも、精神病院の開放化、入院患者が地域に戻りケアする仕組みも進められている。
しかし、中途半端なのが我が国の現状だという批判がある。

トリエステでこうした改革がすすめられた背景には、イタリア人とスロヴェロニア人の共存する国境に近い街であったことや、ファシズムにたいするバルチザンの英雄的な開放闘争があったことも指摘される。同時に、当事者の努力も大きい。

変なナショナリズムや排外主義に酔いしれる今日の我が国はトリエステの空気と全く逆だ。悲しい事件があるたびに改革を実行しようという人々を萎縮させているのではないか。それでも進まなくてはならない。